フェムトセカンド #七味とーがラジオ / @melonsode

The Destination is unknown. The Journey is the Reward.
Author: 野澤真一 / NOZAWA Shinichi , version 2.0220330 / Podcast: 七味とーがラジオ / twitter: @melonsode

課長から社長になった島耕作

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「課長 島耕作」シリーズを2週間ぐらいかけてイッキ読みしました。
まだ読んでないシリーズはあるにはあるのですが、いささか食傷気味。

知らない人は知らないと思いますが「課長 島耕作」はいまだに
連載しています。
ただし、今は「社長 島耕作」です。
島耕作の連載がまだやっているのは知っていても、
いま「社長」になっているのには気付いてないひとも多いのでは。

シリーズは以下のようになっています。

課長  島耕作
部長  島耕作
取締役 島(略)
常務  島(略)
専務  しm(略)
社長 (略)

という具合です。
この他に係長 島耕作とヤング島耕作もあるみたいです。

ここのところ、企業の内部の情報に飢えていて、
で、この島耕作シリーズはサラリーマンの半生を描いているので
うってつけだったのです。

いままで企業に就職したことがないので、
一定の規模以上の会社の人びとがどういう風に行動するのかとか、
社内での経費の使い方とか、どんな仕事をするのかとか興味があって、
あくまでマンガであるとは思いながら読んでいました。

大きな会社の中で働く人の様子は少し前に読んだ
高杉良さんの経済小説にも描かれていて、
お話として面白かったし、
会社の内部の様子を情報として摂取するのも楽しかった。

例えばタイトルの課長、部長、取締役、常務、専務という肩書きに
これまでリアリティーが感じられなかったのだけど、
物語を読む中でなんとなく読み取れるようになった。

物語は連載していた当時の時代背景をそのまま反映して描かれていて、
時代考証資料としても役に立つと思った。
課長島耕作の連載がはじまったのはオレが生まれたころで、
当時の島耕作は当時のオレの親父と同世代(団塊の世代)にあたる。
だから自分が生まれたころの時代背景が
そこにそのまま描かれていて、
しかも、自分の父親と同じ世代の人の目線で描写されているから、
それが新鮮だった。

その後、時代はバブルに突入するわけだが、
日本のバブル絶頂期の雰囲気がみえるのもおもしろかった。
自分はものごころつくかつかないかの頃にバブルが崩壊した世代なので、
バブルの頃、半裸のオネーチャンがお立ち台でクネクネしたりして
踊ったりしているイメージは残っているけど、
日本が「エコノミック・アニマル」と言われていた部分はこれまで
ピンと来ていなかった。
だけど、課長だか部長だかの島耕作はアメリカでバンバン広告費を
投入して自社の看板をあちこちに建てたり、
米国のレコード会社を買収する話などがあって、
金があるっていうのはこういうことなのか、と感心した。

驚いたのは作中で、偉い人たちは軒並みみんなゴルフが好きで、
それは老若男女問わず、しかも外国の人も好きで、
しょっちゅうゴルフをやっていることだ。
ゴルフにまったく興味のない自分からしたら
何か異常な世界のように思えるのだが、
でも一方で自分もゴルフが出来る方が仕事上は有利なのかなと
思わざるを得なかった。

また、夜の街に繰り出すとなると、
大抵は銀座のクラブで、そこのママと誰かができてて、
みたいなティピカルーな描写が
本当にティピカルに相似形でいろいろな場所ででてきて、
それが現実世界とどの程度反映し得ているのかわからないが、
あきれて笑ってしまった。

ただ、専務・社長あたりになるとそういう描写はなくなってきて、
代わりに「料亭」がでてくるようになった。
また政府の要人とかとあうときは、
判で押したように料亭なのだ。
いや、まあ、偉い人と会うときは、
会う空間の格式もあるし、
落ち着いて話すためには個室で静かな環境の方がいいだろうし、
そうなると「料亭」になるのもわかるのだが、
マンガならではの誇張だとしたらワンパターンでつまらないし、
もしこれが現実の反映であるのなら、
この21世紀になってもまだそんなやり方でやってるの?と
突っ込みたくなるのだった。

まあいいんだけどさ。

主人公の島耕作は徹頭徹尾、日本的なサラリーマンだと思った。
いや、今は企業人あるいは経営者というべきか。
良くも悪くも日本の「現状維持を是とする」価値観の持ち主であり、
基本的に"外圧"がない限りは動かない受け身のヒーローである。
正義の味方が悪の手先をやっつけるように、
基本的には「良くないもの」がでてきたら
それをやっつけるという感じである。
悪の手先は毎回独創的で創造力豊かにあの手この手で
正義の味方に挑むが毎回返り討ちにあうという黄金パターン。
これを正義が悪を絶つ勧善懲悪の視点でみるのではなくて、
いろいろ考えて行動したエージョンを
現状維持しようとする穏当派エージョンとが阻止するという
構図としてみればその日本的な側面が見えてくると思う。

部長から取締役になって、
舞台が日本から上海・北京・インドに移った。
さらにその後はロシアや南米なども入ってきて
国の意志決定に関するような部分にも言及が多くなった。

特に上海・北京・インドのあたりの話は自分にとっては
非常に勉強になった。
自分の持っているグローバル感が完全に遅れていて、
自分が思っていた以上に日本が取り残されている現状がよくわかった。

ところで、主人公が一番人生をエンジョイしていたのは
実は課長・部長時代なのではないかと思う。
それ以降はさらに偉くなっていくのだけど、
プライベートな楽しさからはどんどん遠ざかっていっているように思う。
最近は特に、主人公の会社のグローバルな展開を如何にやっていくかとか
日本と世界との関係について言及することが多くなって、
考える基準が個人レベルから組織・国家レベルにシフトしている。
それはそれでエキサイティングだと思うが、
でも課長時代の方が輝いて見えたのは気のせいだろうか。
島耕作はそれを「自分の問題」として考えているならば、
そので十分人生を楽しんでいるということになるのだが、
みているるとどうもその問題が自分の根源的な問題であると認識のもと
考えたり行動したりしているというよりは
「社長」という立場にあるからそのことを考えている
という感じなのである。
そういう点がやはり「受け身」なのである。

会社の中でそれ以上偉い人はいないはずなのに、
社長になってもやはり「受け身」なのは何か考えさせられる思いである。
会社という組織の中で、その組織内の複雑な内部圧力の荒波の中、
逐次適切な行動を取り、気付けば一番上にきてしまって、
会社の行く末やグローバルな環境での日本の未来について考えているのは
それでも尚、その内部圧力に従って行動している結果であるように
見えてならない。
その構造は何かとても示唆に富む。

なんにせよ、大企業内部の様子や、
家電メーカーの裏側、華麗なるナイトライフ、
グローバルな現代の各国の様子などなど、
とても勉強になりました。


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