スモールワールドネットワーク(SWN)のことについて調べようと思い、
グラフ理論を題する本を物色してみた。
グラフ理論の教科書は数が少なかった。
ある人に聞いた話だと、
「一時期流行ったけれど最近はめっきり下火になった」
とのことだったから、そういうことなのかもしれない。
それでその数少ないグラフ理論の教科書のなかで、
SWNが載っているものは皆無だった。
そもそもワッツとストロガッツのスモールワールドに関する論文が
でたのが1998年。
グラフ理論の教科書のうちで
出版年がそれより後というのはみあたらなかったから、
それは当然といえば当然か。
スモールワールドの話が出る前は、
グラフ理論という分野は四色問題が(一応の)解決をみて、
その進展が止まってしまったのかもしれないなと思った。
グラフ理論の教科書にはエルデシュの
ランダムネットワークの話もでてこない。
おそらくそれまでのグラフ理論となじまなかったからだろう。
で、「グラフ理論」「図学」などのキーワードで本を探すのやめて、
それまで見ていた棚のあたりにある本をつらつらと眺めていたら
「スモールワールド」というそのものずばりなタイトルの本があった。
灯台もと暗し。
しかしてそれは、当のワッツが書いたものだった。
一般向けに噛み砕いた本ではなく、
数学的な論考がきちんと書いてあって、
SWNに関して日本語で読めて、数学的に厳密なことが書いてあり、
ある程度まとまっている読み物は、
これをおいて他にないように思われる。
最近、バラバシが一般向けに書いた、スモールワールドやスケールフリー
に関した本を読み終えた。
これがとてもよい本だった。訳もよし。
スモールワールドネットワーク、スケールフリー性、など、
そのあたりの話題についてクリアに、具体的に書いてあり、
この分野のざっくりとした俯瞰図と急速な発展の様を
見事に描き出している。
スモールワールドについて知りたい人はまずはこれを読むのがお奨めです。
ちなみに、ワッツの指導教官ストロガッツはSYNCという本を書いている。
この本はまだ一部を読んだだけだけど、これも面白い。
同期現象についていろいろ面白いことが書いてある。
この”同期”に関しては今読んでいるブザキのRhythms of the brainにも関わる話で、
このあたりを一般向けレベルでもいいから読んでおけば、
もっとブザキの本もスイスイと読み進められたのにと思う。
(たぶん)
hidden figure(正確にはmoony face)を知覚できたときに
脳全体でガンマ周波数帯の位相同期が起こる話も書いてあったり。
日本だと、複雑ネットワークという名前でいろいろ本が出ています。
そのひとつの性質がスモールワールド性という位置づけのようです。
(Wikipediaの複雑ネットワークの項をまず読むのがよいかも。URL参照)
日本語で、数学的にきちんと書かれた本は、
『複雑ネットワークの科学』増田 直紀, 今野 紀雄
『複雑ネットワーク入門』今野 紀雄, 井手 勇介
などがあります。前者はかなり数学がっちりだった気がする。
後者の方がグラフ理論の初歩からスタートしてて取っつきやすく読みやすかったです。
同じような著者でブルーバックスも出てたはず。
ぼくも前ちょっと調べて勉強しようと思ったことがあって、上の2冊がよさそうでしたのでお勧めします。リファレンスもしっかりしてるから、もっと勉強したくなったら原論文などにも飛べるのでいいかな。いっしょに勉強会を開くなども手かもしれません。そのときは誘ってね。